社内情報の漏洩
本件は、ビル及びエスカレーターの管理会社である「TNビル総合管理株式会社」の社員が行ったエスカレーターの点検ミスに関し、同社の元社員がミス事案を部外者に通報したことから情報屋を名乗る人物が同社を訪れ、脅迫ともとれる言動を行ったとするものです。
来訪者の人物調査及び本人が出入する企業や接触人物の確認を行い、来訪者の意図を計りたいとするものでした。
1 依頼の概要
(1)TNビル総合管理株式会社は、関東地域から関西地域にかけて主に商業ビルの管理と設置されているエスカレーターの保守管理を業としている会社です。エスカレーターは定期的な点検が義務付けられており、同社は地域毎に資格を有する検査技術士(一・二級建築士及び昇降機検査資格者)を配置し、契約ビルのエスカレーター点検を義務付けされた期日内に実施しています。
平成25年11月4日東北新幹線宇都宮駅前に所在する「宇都宮第三ビル」のエスカレーターを点検するに際し、担当の井波誠治検査技術士が作業日程表の未確認から検査日を見落とし未実施であったにも関わらず、検査点検を実施した様に虚偽のエスカレーター作業報告書を作成しておりました。
(2)TNビル総合管理株式会社はこの虚偽記載の事実を認知していませんでしたが、平成26年 1月20日突然60代の男性が単独で来社し、
柴崎 悟 栃木県宇都宮市南大通6-5-17
phone 019-5748-0000
携帯 040-8835-0000
E-mail sator○○○@yahoo.co.jp
の記載されている名刺を差し出しながら責任者との面談を申し入れしてきました。同社では応接間に案内しましたが、その途中で訪問者を秘匿で写真撮影し、副社長川住健一が応対しました。
柴崎悟は、副社長に同社社員のみ閲覧可能な社内のデーター文書である前記の虚偽記載されたエレベーター作業報告書のコピーを提示し、「この作業報告書は点検していないのに点検したように虚偽記載された書類である」と申し向けた後、更に「エスカレーターの安全性に関する重大な問題である責任の取り方は色々ある、社長が降りるのも1つの方法だ」などと、この虚偽記載を今後問題化する様な発言を行いました。
(3)同社では早急に事実調査を実施した結果、虚偽記載の事実を確認し、点検作業を実施する等の対処を行ったが内通者の発見には至りませんでした。その後、柴崎悟への対応を検討しましたが、
- 柴崎悟の真意が不明であり、また人物像が皆無である
- 柴崎悟は同業のライバル企業に関係している可能性がある
- 柴崎悟に直接か否かは不明であるが、社内に内通者が居ることは確実視される
等の理由から対処方法の判断が付かない状態が続き、日数のみ経過しておりました。
(4)平成26年2月7日、栃木県庁から同社に電話で警告があり、内容は、「エスカレーター作業報告書の虚偽記載を指摘され、担当の検査技術士井波誠治の資格がはく奪され兼ねない事案である」と言うものでありました。
(5)平成26年2月26日、エスカレーター検査技術士井波誠治が所持する業務用の携帯電話に柴崎悟を名乗る男性から直接電話があり、「虚偽報告書の件で迷惑をかけるつもりは無かった。会社を苛めたかった」「会社(TNビル総合管理株式会社)に内通者が居る私は、情報屋だ」等の話でありました。
今回利用された業務用の携帯電話は、平成25年10月末に電話番号を新しく変更して全社員に貸与したものでした。
2 依頼者
会社名称 | TNビル総合管理株式会社 |
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所在地 | 東京都豊島区東駒込5-6-9TNビル2F |
代表取締役 | 相 賀 悦 朗 |
TEL | 03-0937-0000 |
3 調査対象者
住所 | 栃木県宇都宮市南大通6-5-17 |
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氏名 | 柴 崎 悟 |
TEL | 019-5748-0000 |
携帯電話 | 080-8835-0000 |
4 調査依頼事項
(1)第一段 基礎的調査
ア 調査対象者の人物調査
イ 調査対象者の所在確認
(2)第二段 行動確認
ア 調査対象者が出入りする関係会社の確認
イ 調査対象者の接触人物の確認
6 調査対象者の基礎調査
(1)所在確認について
ア 法務局における不動産登記の調査
調査対象者が居住しているとする、名刺記載の住所地について土地及び家屋の登記状況を調査したところ、
所 在 | 栃木県宇都宮市南大通6-5-17 |
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土地 | 280㎡ |
家屋 | 木造瓦葺2階建 97㎡ |
所 有 者 | 住所 栃木県宇都宮市南大通6-5-17 |
氏名 | 柴崎悟 |
売買月日 | 平成18年5月13日 |
等の登記がされていた、調査対象者の名刺に記載された住所地は実在し、同住所地の土地及び家屋を平成18年5月13日付で調査対象者が本人名義で購入している事実が確認出来た。
イ 居住地における現地調査
調査対象者が居住する宇都宮市南大通6丁目一帯は戸建ての住宅が建ち並ぶ住宅地域である。調査対象者の住宅は南側が道路に面した敷地に建てられた木造瓦葺の2階建である。
敷地の道路境には高さ約150センチメートルのブロック塀が設置されており、その塀中央にある門には両開きの鉄柵の門扉が設置され、門に向かって右側の門柱に「柴崎」と黒字で記載された表札が掛けられている。
門を入って右側に露天の駐車場があり、グレーの乗用車が1台駐車しているのが門扉越しに確認できた。しかし、ナンバーは生垣に隠れて読み取れなかった。
また、2階ベランダに面したガラス戸は閉じていたが、カーテンは開けられていた。ベランダに洗濯物が干してあることから家人が在宅中と思われる。
ウ 居住先付近の聞込み調査
調査対象者宅から約100メートル離れた小規模商店街に所在する「やよいクリーニング」店で聞込みしたところ、60歳代の女性が応対した。
- ここで30年以上クリーニング店をやっている、この付近のクリーニング屋は当店だけです
- 柴崎さんからは背広やワイシャツなどを出してもらっている
- 柴崎さんは、あの家に10年くらい前に引っ越してきた人です
- 家族は奥さんと二人だけです
- 柴崎さんが勤め人かどうかは分りませんが御主人は良く出かけているようです、奥さんは家にいると思います
等の対応であった。
更に、近隣の住宅居住者に聞込みしところ、
- 柴崎さんは10年くらい前に引っ越してきた人ですが、奥さんと二人で住んでいます
- 以前から住んでいる人と違って近所付き合いは無く、会えば挨拶を交わす程度です
- 柴崎さんが何処に勤めていたかは分りせん、いつ頃からかはっきりしませんが金曜日は用事があるらしく午前9時半ごろ車で出かけるのを見かけています
- 柴崎さんの噂話や風評は聞いたことがありません
などが主な聴取内容であった。
エ 柴崎方に対する訪問調査
調査員が近隣に実在する居住者方を探しているとの口実で調査対象者方を訪問したところ、同家の主人と思われる60代の男性が応対し町会地図を見ながら丁寧な口調で道順を教えてくれた。事前に点検していた調査対象者の写真(調査対象者が会社訪問時に撮影した写真)と同一の人物であることを確認したうえで、同人を秘匿撮影した。
以上の調査により、TNビル総合管理株式会社を訪問した人物と柴崎悟が同一であり、また柴崎悟が同所に夫婦2人で居住していることを確認した。
(2)調査対象者の人物調査
ア インターネット検索
柴崎悟で検索したが調査対象者に該当する情報は見当たらない。
イ 新聞記事の検索
過去の事件事故に関する新聞記事について調査したが、調査対象者に関する該当記事は無かった。以上のとおり人物調査に関して、現時点での進展はなかった。
7 調査対象者の行動確認調査
聞込みにより、調査対象者は金曜日に外出する確立が高いことから行動確認実施日を金曜日に設定し、調査対象者の自宅付での張込み及び尾行を実施した。
(1)平成26年3月 7日(金)第一日目
06:00 | 調査対象者の自宅駐車場にグレーの乗用車が駐車しているのを確認し付近で張込みを開始した |
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09:10 | 調査対象者方2階ベランダに、黒色トレーナー様の上下を着用した50歳代後半の女性が洗濯物を干している |
10:10 | 調査対象者が玄関から出て来て、門扉を開ける 調査対象者の服装-茶色ジャンバー・グレーズボン・黒色手提げカバン |
10:13 | グレー乗用車(ナンバー「14-93))を一旦門の外に出し門扉を閉めた後、本人が運転し出発した。尚、同乗者はいない |
10:23 | 調査対象者は国道123号線に出て右折しJR宇都宮駅方向に向かう |
10:55 | JR宇都宮駅前を通過し、更に約300メートル先に所在する3階建の大谷記念病院に到着し同病院横の駐車場に入る |
10:58 | 病院内科受付に立寄った後、胃腸科診察室前の待合所椅子に座る |
11:15 | 調査対象者が診察室に入る |
11:30 | 診察室から出て会計カウンターに立寄り、カウンター前の待合所椅子に座る |
11:50 | 調査対象者は会計を済ませ駐車場に向かう、その後調査対象者が運転し駐車場を出て自宅方向に進行する |
12:30 | 自宅に到着し乗用車を車庫に入れた後、玄関から中に入る |
17:00 | 現在迄柴崎方の出入りは無い、現時点で張込みを打ち切りとした |
(2)平成26年3月14日(金)第二日目
06:00 | 調査対象者の自宅駐車場にグレーの乗用車が駐車しているのを確認し、付近で張込みを開始する |
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08:20 | 調査対象者が玄関から出て、門扉を開ける 調査対象者の服装―紺色背広上下・白ワイシャツ・空色ネクタイ・グレーコート・黒色靴・黒色手提げカバン |
08:25 | グレー乗用車(ナンバー「14-93))を一旦門の外に出し門扉を閉めた後、本人が運転し出発した。尚、同乗者はいない |
08:35 | 調査対象者は国道123号線に出て右折し、JR宇都宮駅方向に向かう |
08:50 | JR宇都宮駅に到着、駅前の有料駐車場に乗用車を駐車し宇都宮駅方向に向かう。グレー色コートを着用し黒色手提げカバンを所持している |
08:56 | 東北新幹線切符売り場で切符を購入し改札を入る |
09:10 | 入線した、東京行き「なすの 153号」の自由席2号車に乗車し出発した。調査対象者は車両中央に着席しカバンから新聞を取り出して読んでいる |
10:05 | 東京駅に到着し新幹線改札を出る。調査対象者は携帯電話で話しながら構内を移動している |
10:10 | 東京駅の中央線ホームに到着し、停車中の快速高尾行きに乗車しドア付近に立っている |
10:12 | 東京駅を出発した |
10:27 | 新宿駅に到着した調査対象者は、電車を降りて西口方向に向かう |
10:30 | 調査対象者は、新宿駅西口改札を出て地下広場を京王デパート方向に向かい、その後京王デパートの紳士服売り場をぶらついている |
11:55 | 京王デパート8階(レストラン街)トイレの横にある休憩所に入り、先に着いていた男性と挨拶する 男性の人相服装―年齢50歳前後・体格普通・面長/眼鏡使用・黒っぽい背広上下・黒色靴・黒色の七分丈コート・黒色ショルダーバックを携行 |
11:58 | 調査対象者と男性はそのまま連れ立ち、同8階の日本食店に入る。両名は店内奥の壁際のテーブルに向き合って着席し食事を注文後、調査対象者が自分のカバンから取り出したA5版大の書類をテーブル上に置き、それを見ながら話している |
12:55 | 両名は日本食店を出てエレベーターで1階に下りる |
13:00 | 1階のエレベーター横で立ち話した後挨拶して別れる この時調査員も二手に分かれ夫々を尾行することにした |
ア 調査対象者の行動確認
13:05 | 調査対象者は京王デパートを出て新宿駅西口ロータリーに向かい、道路を横断し高速バス乗り場横のヨドバシカメラ新宿店に入る。調査対象者は店内をブラブラした後、カメラコーナーやビ デオカメラコーナーに立止まっているが購入品は無い |
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13:50 | ヨドバシカメラ新宿店を出た対象者は徒歩でJR新宿駅に向かい、同駅西口改札を入る |
13:58 | JR新宿駅中央線ホームから東京行きに乗車する |
14:15 | 調査対象者は東京駅に到着し降車した後、新幹線切符売り場で切符を購入して改札を入る |
14:30 | 調査対象者は東京駅発仙台駅行き「やまびこ767号」の自由席3号車、後部座席に着席し出発した。出発後間もなく から腕を組み居眠りをしている |
15:25 | 調査対象者は宇都宮駅で降車し、その後改札を出て駐車場に向かう |
15:30 | 調査対象者が自分で運転し、自宅方向に向かう |
15:55 | 自宅に到着し車庫に車を入れる |
19:00 | 以降の外出は無い。同時刻張込みを打ち切りとした |
イ 男性の行動確認
13:05 | 男性は都営大江戸線新宿駅改札を入る | ||||||||||||
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13:08 | 六本木方向の電車に乗車する | ||||||||||||
13:11 | 代々木駅で降車し改札を出て、明治通り北参道交差点方向に向かう | ||||||||||||
13:19 | 男性は北参道交差点を右折した先に所在する7階建のKHビルに入る | ||||||||||||
13:20 | 男性はエレベーター横の階段を利用し2階に上がり、2階エレベーターホール正面のドアから室内に入る。同ドアに「株式会社大晃」のプレートが表示されているのを確認した同KHビル付近で張込みを実施しながら、当社事務所に連絡をした。「株式会社大晃」の会社法人登記状況を登記情報提供サービス(一般財団法人民事法務部協会 登記情報センター室)を利用し調査したところ、
等の登記がされているのを確認した |
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18:20 | 調査対象者と接触した男性が1人でKHビルから出て代々木駅方向に向かう。服装携行品は調査対象者との接触時と同じである | ||||||||||||
18:35 | 都営大江戸線代々木駅改札を入り光が丘行きに乗車し、電車内ではスマートフォンを操作している | ||||||||||||
19:00 | 男性は練馬春日駅で降車し改札を出る。改札から地上出口に向かい、同地上出口北側を東西に延びる富士街道に出て道路沿いを西方に徒歩で向かう | ||||||||||||
19:11 | 約700メートル進行した交差点を左折し、住宅街に入り更に進行する | ||||||||||||
19:13 | 男性は、交差点を左折後約80メートル進行した西側に所在する木造2階建て住宅の門扉を開けて入り、その奥にある住宅玄関ドアの鍵を自分で開けて玄関内に入った | ||||||||||||
19:20 | 男性が入った住宅を点検したところ、玄関ドアの右側外壁上部に「田垣」と記載された表札が掲示されているのを確 認し,また同所の住居表示が「東京都練馬区春日町7-16-24」であることが判明した 門を入った左側に婦人用自転車1台が駐輪され、1階と2階西側部屋が点灯されており家族で居住している状況が窺えた。 当社事務所において、登記情報提供サービスを利用し田 垣方の土地家屋の登記状況を調査したところ、
であることが判明した |
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21:00 | 田垣方の出入り無く、同時刻張込みを打ち切りとした |
8 依頼者に対する報告
これまでの調査結果を依頼者に報告し調査の継続等について検討を要請したところ、依頼者から
- 田垣吉哉は二級建築士の資格者で、当社に平成2年4月入社しビル管理を長年担当して来たが、平成25年10月1日付でエスカレーター検査担当係長に配置換えになった
- 同僚社員の話から、田垣吉哉はこの配置転換を左遷と認識していた様子があったと聞いている
- エスカレーター検査は地方出張があり、また業務時間が日祭日や夜間にわたるなど不規則であることを理由に、平成25年12月31日付で退社した
- 今回判明した田垣吉哉の再就職先会社(株式会社大晃)は、当社と事業内容が重なっている
との説明がありました。
9 結果
これまでの調査から、柴崎悟が田垣吉哉からの情報を基にして動いた可能性は極めて高いことがわかりました。
田垣吉哉の情報が、再就職先から柴崎悟に告げられたのか、あるいは再就職先以外の第三者からか、または田垣吉哉から柴崎悟に直接伝えられたのかは、現在迄の調査において確認は出来ておりません。
しかしながら、柴崎悟の行動がTNビル総合管理株式会社にある種の害意を与える目的を含んでいることは、平成26年2月26日、エスカレーター検査技術士井波誠治が所持する業務用の携帯電話に柴崎悟を名乗る男性から直接電話があった際の言動からしても紛れもない事実であります。
本件の今後の調査について依頼者は、「これまでの調査結果を踏まえた上で対応策を検討しながら、柴崎悟の今後の動きや事態の推移を見守りたい」としているため、以上を持って当社の調査は終了としました。
以上